わたしが日々使っているモノは、熟考を重ねたうえで手に入れることが多いです。モノによっては数年くらい考え続けてから買ったり、買わなかったりします。そんな話を人にすると、驚かれたりもするのですが、どうやらモノに対する思い入れが強いのかもしれません。ここではそんな語りたくなる愛用品をお話しします。
年末に差し掛かってきて、来年の手帳が必要になってきました。わたしはスケジュール管理などは、基本的にデジタルではなくアナログ派。いまだに手帳に手書きで書きこんでおります。こうした昭和スタイルは、現役の大学生などからしてみれば、「まだ石のお金使っているような旧世界の残滓だね」と思われそうですが、どうしてもこれがスタイルになってしまっているので、やめられません。
わたしが使用しているのは、クオバディスという「おフランス」の手帳メーカーのもので、なんと2008年頃からずっとこの手帳を愛用しております。ですので、もうかれこれ、15年くらいでしょうか。とにかく長いです。このクオバディスの手帳、使いやすいかというと、別に使いやすい感じではありません。どの辺が使いにくいかというと、何よりも曜日がフランス語で書かれているところです(笑)未だによくわかりません。
ではなんでこの手帳を使い続けているかというと、H24というシリーズがあるから。この点に尽きます。H24とは何かというと、24時間の予定(記録)がつけられるようになっているのです。深夜0時から24時まで1日の予定を書き込むことができます。
深夜3時から人と会う予定なんてないよ!と思われるかもしれません。そうなんです。そんな深夜に会議があるというような「電通」的な予定はないのです。しかし、わたしはこの24時間表示というスタイルが非常に好きなのです。なぜそうなのかというと、この手帳、実は予定を書くというよりも行動記録をとるためにつけているからです。24時間、自分は1日をどのように過ごしたのか、感情の起伏などを抜きにして、とにかく行動ログとして記録をとってきたわけです。
そうした場合、自分の睡眠時間の記録はかなり重要になります。自分は普段、何時間眠っているのか、だいたい何時に起きて何時に寝ているのか。どれくらい眠るとパフォーマンスを維持することができるのか。今週の睡眠時間の合計はどれほどなのか、などなど視覚的にわかります。今はそうしたこともデジタル管理できるのかもしれませんが、わたしはいちいち手帳に書き込むことで自分の記憶と記録をつけております。
この行動記録、つけ始めたのは15年前と言いましたが、実はこれには明確なきっかけがありました。ちょうど2008年はわたしが中国で長期のフィールドワークをしていた時期です。この時期に、現地の人々の記録をしつつも、翻って自分は普段どんな行動をしているのか、というのが気になりました。
フィールドワークをしたことがある人間であればわかると思いますが、調査地において人類学者は調査をする側ではなく、実はされる側です。なぜなら調査地(村落)において人類学者は明らかに異質な他者であるから、常に監視・観察の目が向けられるのです。そんなわけで、御多分に漏れず監視・観察される視点に自分が24時間さらされることになりました。寝ても覚めても、他者の視点がわたしに降り注ぐということが、半年くらい続いていくわけです。
そうすると、わたし自身もその他者の視点が気になって、わたしは一体普段どのような行動をしているのか、記録をとりたくなってくるようになります。そのようにして始まったのが手帳の記録。わたしにとって手帳は予定というよりも、むしろ日々の記録用のものです。そして、記録は24時間でなければいけません。自分が一体どういう人間(動物)なのか。そんなことを少しでも理解できるように、15年近く記録は細々と続いてきました。その際に、クオバディスのH24という手帳は最適なのです。
孫氏の兵法に、「彼を知り己を知れば百戦殆からず」という格言があります。すなわち敵(相手)を知り、自分自身のことをよく知っていれば、負けることはない(戦いを避けることも含めて)、というものです(たぶん)。未だにうまく自分を管理できてはいませんが、手帳をつけつつ、少しでも善処できればなと思っております。もはや「不惑」を超えてはおりますが…。
わたしにとって日々の暮らしを支えてくれている愛用品のひとつです。