5月の「業務報告」

 5月は暑くもなく、寒くもなく良い気候です。大学には農場があり、農作物だけでなく、牛や馬なんかも放牧されていたりします。非常にのどかでよい雰囲気です。5月の農場はよいですね。

 

 5月初旬は防府市で蛸壺づくりのワークショップがあり、そのお手伝い(という名のカレーライスづくり)に大学院生などを引き連れて行ってきました。大きな釜で40人分のお米とカレーを作ります!これぞ共食といった感じです。

 

 

 また例年通り、民俗調査実習の報告書の発送作業なども行いました。これを行うと、改めて新しい年度の民俗調査実習が始まるぞという感じがいたします。ひとつひとつ丁寧に学生が感謝を込めて、調査実習報告書を関係諸機関、調査に協力いただいた皆様にお送りいたします。

 

 

 そんな感じで、慌ただしくも平常通り5月の業務を進めてまいりました。なお、これら通常業務と並行して5月に読んでいたのは下記のとおりです。記憶の補助として。

専門書系
  • 2023年5月1日 坂本龍一『async』commmons(2017)個人的にはこれが彼の「遺作」かつ到達点。自然が「調律」してくれた津波ピアノ、雨音、南極の氷の中で鳴る鈴の音…音は決して調和せずテンポも合わない。非同期だからこその音と音楽。人類学が向き合っている存在論的転回は、音楽においても同じ。非同期の同期性。
  • 2023年5月2日 アルベルトゥス=トーマス・モリ「あるフロンティアによる報告」『華人キリスト者の越境と宗教実践』風響社(2020)日本における華人キリスト者の、非一枚岩的な活動が窺える内容。韓国系宣教師による華人へのミッション活動と、既存の華人団体との捻じれとか…なかなか踏み込めない領域に関する報告。
  • 2023年5月7日 Clarisse Berthezéne (ed.), Julie Gottlieb (ed.)『Rethinking Right-Wing Women: Gender and the Conservative Party, 1880s To the Present』(2018)イギリスにおけるサッチャーはやはりシンボル的存在。男社会の中で「女性らしい」身なりをして「男らしい」ふるまいをする。それは訓練の賜物。
  • 2023年5月8日 日本の港町研究会「門司 荒地に築かれた近代港町」『港町の近代―門司・小樽・横浜・函館を読む』学芸出版社(2008)門司があくまでも近世ではなく、近代の港町であることを再確認できる。レトロブームの背後に隠れしまっている花街の話などが興味深い。町と街を使い分けているのも個人的には好印象。
  • 2023年5月9日 「1自然と知識」『文化人類学の思考法』(2019)いろいろ考えさせられる「自然」をめぐる近年の人類学的な議論。わたし個人は都会出身だが、畑仕事を始めて多種と環境を改めて感じている。またアル添の日本酒は受けつけないが、農家にもらった「濁り」は腸が喜ぶという人間の個別的身体という自然も。
  • 2023年5月10日 山口大学人文学部民俗学・文化人類学研究室『山口市秋穂地域民俗調査報告書』 (山口地域社会研究シリーズ54、2023)秋穂地域の民俗文化の調査報告。お大師参り、料理教室、十二の舞…など。わたしは山口大学から続く秋穂街道(御上使道)について少し書きました。昨日は総出で感謝を込めた発送作業。
  • 2023年5月16日 – 2023年5月17日 エルネスト アイテル (著), 中野美代子・中島健 (訳)『風水―欲望のランドスケープ』青土社(1999)改めて日本語版として読むアイテル。訳者が解説でも書いているように、アイテルの風水に対する姿勢からは単なる侮蔑を感じない。ただ「賢い母親の愚かな娘」の解釈は訳者と異なり、母親=自然だと思う。
  • 2023年5月23日 堀内宗心『風炉の正午の茶事と朝茶(表千家流)』世界文化社 (2004)人生初の茶事へ参加のため熟読。懐石は想像を絶する美味しさだった。一度目の飯次は取り切るので一気に腹が満ちる。米次も毎回、質が異なる。言葉は少なくモノからメッセージを読み取る体験型総合芸術。やはりモノと身体の学びが好き。
  • 2023年5月24日 石井美保「呪物をつくる, 世界をつくる-呪術の行為遂行性と創発性」 花渕馨也・石井美保・吉田匡興編 『宗教の人類学』春風社(2010)中国の風水の事例をみていても、この行為遂行性と偶発性の話と重なることが多い。予想外の新たな「現実」の立ち上げ(p.166)という表現も好き。実際そうなのだから。
  • 2023年5月29日 奈倉京子「『障害』をめぐる共生の文化――障害の人類学を超えて、序」『文化人類学』87巻4号(2023)障害をめぐる研究史として非常に勉強になった。テーマは障害だがとても汎用性のある議論であると感じた。個人的には中国の人身売買の事例が興味深い。全体的にバトラーとも親和性が高そうな気がした。
  • 2023年5月30日 『China-Africa Economic and Trade Relationship Annual Report 2021』(CAETE)実際の数値の正確性はさておき、肌感覚としても説得的なデータ。アフリカへの輸出は、機械製品、日用品、繊維製品と続くが、このうちの日用品、繊維製品がマイクロビジネスと関係してこよう…。
  • 2023年5月31日 レヴィ=ストロース「具体の科学」『野生の思考』みすず書房(1976)改めて…議論も事例もとても好き。「科学者が構造を用いて出来事を作るの(世界を変える)に対し、器用人は出来事を用いて構造を作る」は実に端的で心地よい。「書斎に打魚棒」じゃないが、人類学者の研究室は何かの手触りが欲しい!
一般書系
  • 2023年5月1日 アルド ロッシ (著), 内田繁 (著), 林千根 (訳), ブライアン アムスタッツ (訳)『門司港ホテル』六耀社 (1998)門司港のシンボル的な建物、門司港ホテル。外観も美しいが、内部もとても美しい(以前宿泊)。景観に溶け込むかランドマークになるかのどちらかではなく、どちらも達成してきたアート作品。
  • 2023年5月2日 桜井博志「PART1 獺祭を造った口ぐせ」『勝ち続ける「仕組み」をつくる 獺祭の口ぐせ』(2017)機械や装置を使い、データをもとにした「近代的」な造り方というと伝統や技術、経験や勘を蔑ろにしているように映るが事実はその逆。圧倒的な(経験)量が質を担保しており「手」の領域を最重視している。
  • 2023年5月7日 「みんなで家族で土いじり」@防府市指定有形民俗文化財「末田の窯業生産工房及び登窯」に院生とともに裏方として参加。40人分のカレーと米を、「古典的」な方法で準備するという作業がメイン。テクストではできない共食の学びと実技。特に米は失敗すると悲惨なので、かなり神経を使って焚き上げます。
  • 2023年5月8日 北原みのり「第1章 100日裁判スタート」『毒婦。』朝日新聞出版社。次々と引き込まれていく相手が、いずれも男性であることを考えると「人たらし」というよりも自営的プロ美人局。対象となってきた男性たちの語りは、どことなく「生きにくさ」が感じられる。彼女はそれを上手に埋めてきたのだろうか。
  • 2023年5月9日 佐藤健寿展 「奇界/世界」@山口県立美術館を見学。いろいろな世界の「奇抜な風景」が写真におさめられていたが、人類学的にはかなり「入口」的な印象。ただ1枚の写真という情報量の少なさが、受け手の想像力を膨らませる魅力がある。国立民族学博物館からの貸し出しも多数。福建土楼の写真もあった。
  • 2023年5月10日 はやぶさひろ『俺のミッション 中国ビジネス三都物語』めでぃあ森 (2022) 中国における日系ビジネスの最前線がよく描かれていると思う。中国あるあるネタも多い。ただ(日本語で)日本人読者向けに書かれている感が強く、現地からは別の物語となろう。業種によっては共産党と親族関係がより鮮明かな…
  • 2023年5月11日 tupera tupera(作・絵)『かぜビューン』学研プラス(2018)tupera tupera の魅力は、画のクラフト感。紙なんだけど、どこか立体感や手触りを感じてしまう。かぜビューンはとてもシンプルなお話しなのだが同じようでいて違うかぜとして描かれている。実はトートバッグも持っていたりしてお気に入り。
  • 2023年5月17日 桜井博志「PART2 戦う経営者の口ぐせ」『勝ち続ける「仕組み」をつくる 獺祭の口ぐせ』(2017)東京でも獺祭が品切れ状態という時期が続いたが、実は問屋側の問題もあったことを初めて知る。日常の延長としての酒という意味での獺祭はよい。波佐見焼ではないが「用の美」こそがやはり至高だと思う。
  • 2023年5月23日 桜井博志「PART3 お客様から支持されるための口ぐせ」『勝ち続ける「仕組み」をつくる 獺祭の口ぐせ』(2017)読むほどにアサヒスーパードライとの類似性を感じる。日本酒の味は何よりも流通消費における冷蔵管理が大事。ただそうした設備がない昭和時代の二級酒、キリンラガーもまた当時の「正解」。
  • 2023年5月24日 桜井博志「PART4 世界で戦うための口ぐせ」『勝ち続ける「仕組み」をつくる 獺祭の口ぐせ』(2017)個人的には本書で一番理解しにくいパートであった。ライバルはビールではないだろうし、高品質・大量生産こそが獺祭の魅力では?とも思う。とらやへの敬意は同意するが、虎屋文庫や機関紙をもち別格。
  • 2023年5月25日 桜井博志「PART5 会社と社員を成長させる口ぐせ」『勝ち続ける「仕組み」をつくる 獺祭の口ぐせ』(2017)オジサンは説教臭くなってしまう。その意味で自分を戒めてくれる内容。「おわりに」がなければちょっときつい…。小瓶を買う客は自己制御の問題ではなく、鮮度を楽しみたいからではと思ったり。
  • 2023年5月29日 北原みのり「第2章 佳苗が語る男たち」『毒婦。』朝日新聞出版社。読みすすめると、対象となるのは誰でも彼でもではなく、彼女なりの線引きがあり、彼女なりの合理性で動いていたことがうかがえる。いわゆる一般的なセックスワーカーとも違う、なんとも言えない特殊な業態に驚く。フリーの専門職か。
  • 2023年5月30日 北原みのり「第3章 佳苗の足跡をたずねて」『毒婦。』朝日新聞出版社。一番興味深い章だった。特に生い立ちや父母に関する部分は興味深かった。誰も来ない正月を迎える父、配偶者の49日で習いたてのギターを披露する母。田舎であればあるほど、多様なロールモデルが得られにくいという寂しさを感じる。
  • 2023年5月31日 北原みのり「第4章 毒婦」『毒婦。』朝日新聞出版社。最終章も興味深かった。個人的には「被害者すら“ブス色”に染められる」というのがパワーワードだと感じた。また「援交世代から思想が生まれると思っていた。生んだのは木嶋佳苗だったのね」という上野千鶴子さんとのこぼれ話の部分も何か刺さった。