9月の「業務報告」

 9月も、いろいろなものに追われつつ過ごしてまいりました。

 

 今年度から新しく始めてみた試みとして、学部ゼミ生の課外授業があります。今の4年生は、コロナの影響もあり、民俗学・文化人類学研究室ではおなじみの合宿調査が出来ませんでした。ですので、思い出作りもかねて、コロナがおさまりつつある今、どこか宿泊を伴って課外授業ができれば、と思っていたわけです。

 

 

 今回、課外授業の場所に選んだのは、神戸・大阪。大阪の国立民族学博物館を見学するというのが、一番の目的ですが、その前に、神戸に立ち寄って一泊。神戸の中華街、神戸ムスリムモスク、神戸の海外移住と文化の交流センターを巡検し、国内にいながら「異文化」を感じ、いろいろな想像力を膨らませてもらいたいというのが狙いです。今回の課外授業はわたしも、学ぶことが多く大変実りあるものになりました。

 

 

 「海外移住と文化の交流センター」は、まさに日系ブラジル人発祥の地!この建物からブラジルへと渡航した歴史が学べます。展示もさることながら、建物が何よりも当時を感じさせて、感慨深い気持ちになりました。寄付者一覧の中には、先日亡くなられた、アントニオ猪木さんのお名前もあり、さまざまな人がさまざまなルーツを持ちながら、同じ社会の中で生活しているという、個々の多様性を改めて感じました。 

 

 

 神戸の南京町も!いつも論文とかでは読むのですが、ちゃんと歩くのは初めてです。やはり文献だけではなくて現地に行くことは重要ですね。学生たちも心なしか楽しそう。やはり民俗学・文化人類学研究室は、教室の外にも出ないと!

 

 

 国立民族学博物館も、1日かけて見学しましたが、今回はゼミ生たちと太陽の塔の中にも入りました。実はわたしは初めて中に入ったのですが、本当によかった!岡本太郎の哲学を感じます。なんでしょうね、アートがもつ力、モノとしての力、モノのエージェンシーを強く感じるのです。とにかく展示はわかりやすい。生命の賛美、太陽を中心とする宇宙の混沌、そしてその混沌の静かなる肯定を感じるのです。こうした岡本太郎の哲学は、文化人類学的な素養ともおそらくかかわっていることでしょう。だってフランスで、レヴィ=ストロースと一緒に机を並べて、マルセル・モースの授業を受けていた、とされているわけですしね。

 よくメディアでは、岡本太郎と言えば「芸術は爆発だ!」のオジサンとして紹介されることが多いですが、太陽の塔の中には別の言葉が書かれております。それは「芸術は呪術だ」というもの。いい言葉ですね。確かに芸術は呪術かもしれません。芸術は決して、明確な関係をもって説明しうる複数の要素の組み合わせ、ではないにもかかわらず、わたしたちはそれらが関係しているものと考え、想像し、行動し、願うからです。たとえるならば、テルテル坊主。明日が晴れることと、テルテル坊主を作ることには、なんら明確な関係性は説明できません。しかしわたしたちは、モノを使って、考え、想像し、行動し、願うのです。

 そんなことを考えると、「芸術は呪術だ」という言葉も、なかなか心に響きます。 

 

 さて、9月の前半は神戸・大阪にゼミ合宿だったわけですが、後半は3年生を引き連れて、今度は民俗学・文化人類学研究室総出で、民俗調査実習に行きました。場所は、山口県の秋穂地区です。こちらはこちらで、瀬戸内海の穏やかな海と山に囲まれており、非常に素晴らしい場所でした。

 

 

 今回は初めて研修施設を借りて、打ち合わせ等を行いましたが、ちゃんと机と冷暖房が完備されているフィールドというものは、なんとも快適なものです。

 

 

 山口は都市部とちがって、人間ひとりひとりの地球の専有面積が広くて贅沢な気分になります。

 

 

 こちらは3泊4日の合宿でしたが、どうにか無事、大きなトラブルもなく終えることが出来ました。秋穂地区においては、様々な方にご協力いただきました。皆様には心より感謝申し上げます。

 

 willpower をうまく管理して、今月も一歩ずつ着実に「仕事」が続けられればと思います。