4月の「業務報告」

 

 年度初めも、初日からいろいろと動いております。

 

 ひょんなきっかけで、共著書『ホッピー文化論』に関して、地元商店街でお話しする機会をいただきました。メインの研究テーマというよりも、サブ的な気持ちでやっていたものの方が、意外と世間にはひびいたりするのかもしれません。山口はホッピー文化圏ではないですが、この日はおそらく日本で一番ホッピーについて熱く語ってた場所だと思います。

 

 

 年度がかわり、ゼミ生もメンバーが新しくなりました(院生や研究生は相変わらず変わらないままですが)。ことしは、なんと小林ゼミが学部案内パンフレット用の写真に使用されるということで、撮影が行われました。プロの機材、プロのカメラマンの写真はやっぱり違いますね。ちょっと見せてもらいましたが、とても「カッコよく」映っておりました。個人的には、このプロモーション用の写真の中に、『ゾミア』、『負債論』、『ヌアー族の宗教』などをさりげなく写し込んだということに達成感があります(笑)

  

 

 研究活動とは全然関係ないのですが、新たな動きとして、今住んでいる地域の自治会(旧町内会)の活動も大きく首を突っ込むことになりました。というのも、今年度から地域(60世帯)の自治会長になってしまったためです…。前任者が81歳。だれも後を引き受けたがらず、毎朝のように高齢者が三顧の礼を尽くして依頼しにくるので、断り切れず、自治会長のお仕事をお引き受けするうことになりました。

 

 

 自治会長というとなんか偉そうですが、要は地域の雑用係です。市報を準備したり、(今のところ)毎週のようにある地域の会議に顔を出したり、清掃活動を行ったり…。でも思うんです、地球環境を声高に唱える奴に限って、目の前のゴミを拾わない感じってありませんか。わたしはウクライナの戦争も止められませんし、全然社会の役には立てないですが、地域の高齢者の役には、ほんのほんの少しでも役に立つことがあるかもしれない、だったらそれでいいのかなと。自分の今あるリソースの最大限を使っての福祉活動だと思っております。あと、地域を別の視点から見ることもできますしね。

 

 そんな感じで新年度がスタートいたしました。あと急に4月半ばに思い立ったのですが、読んでいる論考や一般書を、定期的に記録しておこうかなと思い、記録をとるようになりました。4月に読んでいたのは下記のとおりです。記憶の補助として。

 

専門書系
  • 2023年4月13日 川口幸大「規範なき模範-「町中華」に見る日本的中華料理店の展開」(2023)真面目にやらないと難しいテーマを極めて真正面から扱った論考。ややもすると表象論に逃げがちな対象だが最後まで「食」として論じているのがすごい。町中華はその「存在」において主客が不明瞭である。だからこその町中華。
  • 2023年4月16日 田中有紀『中国の音楽論と平均律──儒教における楽の思想』風響社 (2014)中国(東アジア)の音楽論を「純正律」と平均律を交えて詳述。三分損益の「往而不返」と朱載堉による平均律の「往而復返」をめぐる物語。これは痺れるほどの面白さ。著者も風響社も美しい見事なお仕事で敬服の念に堪えない。
  • 2023年4月17日 大城直也「王府文書「廻文」にみる葬墓制記事」『壺屋焼物博物館紀要』24号2023.今年度から自治会長になってしまったのだが(笑)、かつての琉球王府の「回覧板」を楽しく拝見した。特に風水留学で福建に行ったり、身元不明の死体の話が興味深かった。地域に死体があったら今も昔も大変ですよね…。
  • 2023年4月18日 美馬亜貴子(監)『テクノ・ポップ』シンコーミュージック(2004)坂本龍一さんが先日、亡くなりましたが、改めて日本におけるテクノポップとは何なのかを考えてもよいのかも。クラフトワークのインタビューに出てくる敗戦国、日本とドイツの話から。クラシックではない新たな音楽言語の必要性などを。
  • 2023年4月19日 松村圭一郎・中川理・石井美保「序論 世界を考える道具をつくろう」『文化人類学の思考法』世界思想社。「文化人類学を学ぶと、もうそれ以前の自分には戻れなくなる」から始まる本章。実に刺激的!わたし自身も身に覚えがあるが、伝える側である人類学者の魅力もあった。時空を共有する身体性も重用。
  • 2023年4月20日 洪馨蘭「認同的流動與形塑 : 台灣「新个客家人運動」後的「新」客家人」『国立民族学博物館研究報告』47(2)(2023)台湾における客家は、政局の変化や多文化主義的姿勢と供に考える必要性を再認識させられる。その中で近年の統計上の客家の「増加」とそれに伴う「質の希釈化」はとても興味深い問題。 
  • 2023年4月21日 椎野若菜/カルシガリラ,イアン「東アフリカにおける月経観とセクシュアリティ」『月経の人類学』世界思想社(2022)改めて民俗生殖観が中国漢族と近しいと感じた。晩婚化、合計特殊出生率の低下、粉ミルクの普及を考えると月経は実に現代的問題。「男/女」揃って調査することの重要性も教えられた。
  • 2023年4月22日 前野清太朗「災害「のあとの」歴史――現代台湾の地域的記憶と歴史記述」『感染症・哲学・文学』論創社(2022)台湾の多元性・多様性は、マクロレベルのみならずミクロレベルにおいても存在し、ルーツや均質性では語りえないとのこと。災害は契機となりえるが地震・水災と「疫災」は質が違うことも納得。
  • 2023年4月23日 ー 2023年4月24日 広島文化人類学プロジェクト研究センター・中四国人類学談話会は共催「Shiho Satsuka Lecture on Matsutake Worlds」を聴講。発表内容も、コメンテータの指摘も含め大変勉強になった。個人的には食らうことの毒性の意義を改めて考えさせられた。また人間内の身体的多様性も。https://taihi.org/events/matsutake-worlds/
  • 2023年4月25日 飯島典子「開發雲南礦山的“客話圈”江西人:以江西吉安人為中心」『国立民族学博物館研究報告』 47(2). プレ客家の潜在的領域を、東南アジアのみならず中国内陸部(雲南)まで模索した論考。やはり鉱山開発との関連や、流動的労働人口の供給源としての意味合いを感じる。江西は未だにそのイメージあり。
  • 2023年4月26日 中川敏「クラと大地と祖先と墓と」『交換の民族誌』世界思想社。いつまでたっても色あせない最高の「教科書」、のクラ交換のパート。「シナケタ地方の人びとが、南のドブへ航海する、という前提で記述を進め」るわけだが、自然と「長老トコバタリアのことば」というナレーションが頭の中で流れだした。
  • 2023年4月27日 呉雲霞「在大幡下與祖靈相聚:從越南艾人的宗教儀式看客家身份之不確定性」『国立民族学博物館研究報告』 47(2). 同じベトナムにおける「客家」であっても、その背景が異なることでエスニシティを異にする。どういう共同体でありたいかは、どういう物語を語り・共有し、どんな儀礼を行うかでもある。
  • 2023年4月28日 山口睦・野口直人編『「模する」技術の発展と伝統的習俗の変容についての学際的研究』成果報告集(2023)なんか無茶苦茶オシャレでカッコいい科研の成果報告書だった。もちろん視覚的にも素敵なのだが「Homo Mimesis人類はなぜ模するのか」というテーマもカッコいい。「秘宝館」は視覚的な訴えが抜群。
  • 2023年4月29日 BBC Radio 4 – Thinking Allowed(Released On: 01 Feb 2023)にて社会人類学者アダム・クーパーが近著『The Museum of Other People: From Colonial Acquisitions to Cosmopolitan Exhibitions』に関して語っている。「伝統」の近代性、複数文化の相互接触展示アイデアなど。https://www.bbc.co.uk/sounds/play/m001hp9j
  • 2023年4月30日 「東アジア人類学研究会・2023年度若手研究者発表会」を聴講。若手研究者(修士・博士院生)のみ発表可という貴重な定例会。若手の方が時代の変化を如実に反映しているので、「いま」を窺い知ることができる。コロナの影響もあってか、日本の調査事例が多かった印象。テーマ設定や背景も参考になる。

 

一般書系
  • 2023年4月13日 ひろたあきら『むれ』KADOKAWA(2019)入口は広く入りやすいのに、奥行きがありすぎる本書。非常に明瞭なストーリーの奥に哲学性を感じる。「むれ」とは何か。これを集合や仲間、カテゴリーではなく、「むれ」としたのもよい。単配列とか多配列ではなく「むれ」。動態的な「むれ」に感じ入る。
  • 2023年4月16日 まつい のりこ『じゃあじゃあびりびり』偕成社。日本語における絵本の古典といってもよいのではないだろうか。音素ではなく音声であり、意味をもった音ではなく、音こそが意味になるオラリティ的絵本。視覚的にも、サイズ的にも、1ページの厚さもよいし、音声が読み手に大きく依存しているのもよい。
  • 2023年4月17日 横山光輝『三国志』55 潮出版社。孔明と仲達の知恵比べが続き互いに犠牲を出しながらの睨みあい。ただいつの世も、本当の「敵」は内部にいるのかもしれない。それは単に命に背くというだけではなく、いわゆるイエスマンも、ある意味で組織にとっては「敵」なのかもしれない。魏はその多様性こそが力。
  • 2023年4月18日 文: 谷川 俊太郎、絵: 広瀬 弦『まり』クレヨンハウス(2002)谷川俊太郎お得意の「音声的循環世界」。地球の自転・公転のように、同じ地点に戻ることで単位は完成する。この本もまた、循環することでひとつの物語になる。周期とその広がりを感じさせる展開。平面っぽい地面が不連続的なのもよい。
  • 2023年4月19日 世界貿易産業大博覧会誌編纂委員会編『世界貿易産業大博覧会誌 : 門司トンネル博 昭和33年3月20日-5月25日 関門海底国道トンネル開通記念』1959.当時の様子がビシビシ伝わってくる史料。地方博アツい。個人的に意外だったのは、既にパゴタが存在しており、第二次大戦と関連していたこと。地図もよい。
  • 2023年4月20日 高田かや『カルト村の子守唄』文藝春秋(2021)なんともすごい物語だった。思った以上に「一般社会」とのつながりがあったり、出入りがあることに驚いた。カルト村は向き不向きはあると思うが、視点は「ニュートラル」であろうとするのが伝わる。「ハレハレっこ」や「調整結婚」などの用語も興味深い。
  • 2023年4月21日 絵 roko, 監修 今泉忠明『パンダのずかん』Gakken (2022)遠藤秀紀先生の「7本目の指」の研究成果もさらっと登場。個人的にはパンダの識別と名付けの一覧が興味深かった。中国社会の世代別、輩行システムではなくオリジナル。アドベンチャーワールドはクラン的で、王子動物園は落語・歌舞伎的(笑)
  • 2023年4月22日 ー 2023年4月23日 ー 2023年4月24日 横山光輝『三国志』46 潮出版社。ワクワクの南蛮征伐の始まり。孔明の智略もよいが、孟獲らが自然環境(虫やら微生物)を味方につけるのが好き。実にマルチスピーシーズ的な戦い方。本来は、いわゆるゾミアランド的なはずなのだが、難なく言葉が通じたり、読み書きができてしまったりするのはご愛嬌。
  • 2023年4月25日 『暮らしの実例―収納と整理 (CHIKYU-MARU MOOK 別冊天然生活)』地球丸 (2017)疲れてくると写真や画が多い本に走る傾向にある。こういう雑誌でいつも気になるのは、家屋や部屋というよりも道具。日常のケメックス、ルイスポールセンなども画からの取り入れ。今回気になったのはラバーメイドのバケツ。
  • 2023年4月26日 樹木希林『一切なりゆき 樹木希林のことば』文春新書(2018)「職人」的な仕事をする人は、どんなジャンルであれ本当に尊敬する。「第4章 仕事のこと」が個人的には刺さる言葉が多かった。時折差し込まれている写真がまた、何とも言えない感じでよい。内田裕也を提婆達多とするのは妙に納得した(笑)
  • 2023年4月27日 作・絵 真珠 まりこ『おべんとうバス』ひさかたチャイルド。「大人」が一生懸命考える道徳的な欺瞞や押しつけよりも、本作の方がよっぽどストレートに子どもに届く。リズムとテンポもよく、0歳児でも何かが加算されていくのが視覚的に伝わる。邪気のなさとありあまる余白こそが本作の魅力だと思う。
  • 2023年4月28日 北九州市にぎわいづくり懇談会『雲のうえ』(37号)ただの情報誌と思うなかれ、そこらの雑誌よりレベルが高いと感じた。37号は町中華がとりあげられていたが、写真、文章、デザイン、編集すべてがカッコいい。作り手たちの関係性がよく、自由度が高いのだろう。「売れるもの<作りたいもの」のお手本。
  • 2023年4月29日 桜井博志『勝ち続ける「仕組み」をつくる 獺祭の口ぐせ』KADOKAWA(2017)獺祭との出会いは衝撃だったし今でも大好き。ただ山口に移住してからは頻度が減ったことも確か。獺祭の近代性を語る際、いつも頭のどこかで『悲しき熱帯Ⅱ』の雑味のある「一杯のラム」(特に369頁あたり)のくだりが頭を過る。
  • 2023年4月30日 ダニエル・スミス (著), 小野 智子 ほか(訳)『絶対に行けない世界の非公開区域99』日経ナショナル ジオグラフィック(2022)ほとんどの場所が政治的(軍事的)に公開されていないか、宗教的な理由かというもの。そういう意味で両者は似ているのかもしれない。それらから外れる場所が逆に興味深かった。