2024年8月の「業務報告」

 先月も、いろいろと慌ただしくしておりました。

 

 8月はゼミの打ち上げから…。最近できた韓国料理屋さんにゼミ生たちと。体調不良のため漢方を肴に。

 

 そして、山口地域社会学会。地域の出来事が事例となることが多く、とても身近で楽しいです。

 

 人文学部の民俗学・文化人類学分野の持ち回り食事会。今回はウチのゼミが担当。そうめん!

 

 そして、オープンキャンパス。西日本を中心に多くの高校生とその親御さまに来ていただきました。

 

 中国から研究者が2人来山。東亜経済研究所の資料を閲覧するのでそのアテンドをしました。

 

 その訪問学者2人とわが家で餃子作り体験。えぇ、これもおそらく「仕事」の一部です。たぶん…。

 

 月末にかけては科研、青鬼の調査で北海道の登別へ。

 

 なかなかにキャッチ―なお祭りで、20世紀半ば以降に誕生した「伝統」のおもしろさを感じます。

 

 そしてもう一つ調査予定があったのですが、台風で延期。台風なのに月末は米不足に直面しました。

 

 …とまぁこんな感じでした。

8月に読んだりしてたのはこんな感じです。

  • 『月刊 みんぱく』2024年8月号。いつも楽しい月刊みんぱく。今号の特集はなんと「ワンダー! 客家」。企画展と併せて、「土楼に住んでみる」を寄稿。風響社のブックレットも併せて販売予定。そちらでは福建客家とタイガーバームについてご紹介。みんぱくの企画展には個人蔵の土楼漫画を送ってます(笑)
  • 昨日は「第55回山口地域社会学会」の研究例会を聴講。発表者の方々は、それぞれの「強み」を生かした発表で大変勉強になった。経済学畑の方は視線が新鮮であったし、中国のジェンダー研究も現状を考えさせられた。NYTと山口市の観光の話も非常にタイムリーで、市議会等の「ズレ」の話も興味深かった。
  • 会田雄次「捕虜の見た英軍」『アーロン収容所 西欧ヒューマニズムの限界』中公新書. 筆者による英軍の見立てが興味深い。確かにアングロサクソン系は、体格に比例して能力が高く権威的な感じが映画などでも描かれている印象。対照的にインドの看視兵が日本軍捕虜のところに逃げ込んでくる話も面白い。
  • 会田雄次「日本軍捕虜とビルマ人」『アーロン収容所 西欧ヒューマニズムの限界』中公新書. 筆者によるビルマ人観察がフィールドワークっぽくて興味深い。「米を二度とったらどうだ」と聞いたら、「とんでもない。そんなにとってどうする。ここは三年に一度でよいのだ」の行は『負債論』のあとがき感。
  • 会田雄次「戦場と収容所」『アーロン収容所 西欧ヒューマニズムの限界』中公新書. 改めて人間の能力・才能というものが非常にコンテクスト依存であることを考えさせる。特に水田班長が過酷な戦場で拵えた汁粉の話はとても印象に残った。植物と同様、人も条件に応じて芽が出て花が咲き、枯れたりする。
  • 伊東ひとみ「第1章 なんでもありの「キラキラ界」」『キラキラネームの大研究』(2015)本書の出版から10年近く経過したからだろうか、並べてある名前を見てもそれほどキラキラ感を感じない。むしろ一般的。勘解由小路光宙は知らなんだ。東日本の人間が西日本に住むと、逆に苗字がキラキラして見える。
  • 昨晩は、近所のYCAMへ「ミニオンズ フィーバー〈日本語吹替版〉」(2022)を見に。恒例の真夏の夜の映画祭。ミニオンズは「安心して」子どもが視聴できるものかもしれないが、それはあくまでも大人目線でもある。子どもこそ「子どもだまし」が効かない。大人が本気かどうかを見抜いている気がします。
  • 伊東ひとみ「第2章 なぜ読みにくい命名をするのか」『キラキラネームの大研究』(2015)キラキラネームに対して、「セーフ」とか「アウト」いう表現を使って議論する時点でちょっとわたしと相容れなすぎる。是非「刑務所」とか「嫉妬」という名前がつけられるアフリカ社会を研究してもらいたいところ。
  • 川越淳監督「それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン」(2024)昨日はアンパンマンの映画を見に(映画館の無いマイタウンから)隣町へ。なんと「ばいきんまん」が主役の本作!心に刺さるコトバが多かった。映画だけでなくアニメも、実は川越監督の絵コンテ・カメラワークは素晴らしい。
  • Beidelman 1974「Kaguru Names and Naming」 個人的に好きな人類学的名前研究の古典。乳児死亡率が高い社会において死は、死そのもの、ネグレクトや育児の困難さを忘れることとも関連付けられる。また過度な期待もNG。名前は「失望」「難儀」「訴訟」あたりでのびのび育児!
  • 斉藤 泰雄「識字能力・識字率の歴史的推移――日本の経験」『国際教育協力論集』15 巻 1 号 51-62 頁(2012)日本における識字率について気になって出会った論考。当たり前のことだが、19世紀末は地域差や男女差がとても大きい。一律に識字率として語ることのできない現状があったことをうかがい知れた。
  • 伊東ひとみ「第4章 言霊がつくったややこしい状況」『キラキラネームの大研究』(2015)文字と音声(音素)の関係性は、個人的に楽譜と音楽として考えている。楽譜はとても大事。でも楽譜は音楽それ自体ではないことには意識的でありたい。風俗嬢などの源氏名の語源が『源氏物語』から来ているとは…!
  • 伊東ひとみ「第5章 「読めない名前」の近代史」『キラキラネームの大研究』(2015)改めてではあるが「一人=一氏+一名」というのは革命的。選択的夫婦別姓問題も、そもそも論で言えば名前を管理されているためにおこるもの。Internetのaccountみたいに、複数の「人格」を持つ方が健康的な気がする。
  • 『新登別市史 第3編地域史と郷土の文化・人物』(2021)わけあって登別の市史を読んでいるが、なかなかに本州とは違って興味深い。伊達藩片倉家との関係や、日清・日露戦争後の傷痍軍人の療養施設としての利用など。近世近代の移植者は台湾の内省外省人的に映る。1960年代の「洋寿司」かなりは斬新。
  • 伊東ひとみ「第6章 明治期のエリートはなぜ珍名を好んだのか」『キラキラネームの大研究』(2015)確かに森鴎外の長男、於菟はカッコイイ。漢籍は東アジアにおけるラテン語的で権威的。ただビジュアル系バンドの歌詞、救世主(メシア) 業(カルマ)などと構造的には同かな、と。迷宮(ラビリンス)。
  • 移動中に和島香太郎監督、映画『梅切らぬバカ』(2021)を視聴。なにはともあれ塚地。塚地の演技が素晴らしかった。そして加賀まりこも名演。こういうのを見ると日本映画も捨てたものではないと思える。予算規模とか、高度な科学技術とかも重要だが、作品の本物性はなお重要。民族誌もそうでありたい。
  • 齋藤栄功「第5章 破局の足音」『リーマンの牢獄』講談社。最近何かと話題の株式界隈、金融業界における西村賢太的な感じで楽しく読める。類は友を呼ぶ、ではないが怪しいところには怪しいものが集まるというのがよくわかる。政治も金も暴力も人間も…。どの業界も個人の技能・能力と同様に環境も大事。
  • 齋藤栄功「第6章 コンゲーム」『リーマンの牢獄』講談社。最近何かと話題の株式界隈、金融業界における西村賢太的な感じで楽しく読める。破綻の寸前まで来たところでハイエナのように中国系エージェントがすり寄ってくるのが興味深い。ホテルの一室で5億分の札束を輪ゴム留していく作業は滑稽である。
  • ウェーバー,マックス (著者), 安藤 英治 (翻訳), 池宮 英才 (翻訳) 1967「音楽社会学 2」『音楽社会学(経済と社会)』創文社。ウェーバーはよく「耳学問」の天才とも称されるがそれは字義的にも正しい。「音楽の和音的合理化は、それ自体のうちに非合理的な要素を内蔵している」という表現は秀逸。
  • 阿部万里江「ちんどん屋の「響き」から考える」『音と耳から考える』アルテスパブリッシング (2021)最近、ヘッドフォンで音楽を聞くことと、生演奏を聴くことは動詞レベルで違うと感じている。4’33”ではないが、音楽は鼓膜だけでは語りえない。そういう意味でちんどん屋は最適な事例かもしれない。
  • 夏休み。近所の子どもたちが遊びに来ているのですが、彼らに人気のお菓子(カラムーチョ)の袋をふと見たら…カラムーチョの「ヒー一族」は(意外にも?)母系でした。成員に母方の平行イトコが含まれていることからも母系意識は強いでしょう。ナシ族モウソ等とは異なり配偶者も成員権をもつようです。
  • 『山口大学CAMPUS GUIDE 2025』今週末のオープンキャンパスを前に2025年版を確認。それにしても福島県からの志願者が0人なのは会津藩の怨念を感じる…。人文学部の写真に『ゾミア』『虚構の近代』『ヌアー族の宗教』『野生の思考』『マツタケ』『負債論』などを映り込ませたことが個人的には達成感。
  • オープンキャンパスに併せて…ということでもないのですが、著書紹介を所属先のHPにUPいたしました。なんだか著書『土楼』の話というよりも、山口の「餅まき」の話がメインな感はありますが…。山口は今でも「餅まき」ガチ勢がいます。チョコまきという変形もありますが。https://www.hmt.yamaguchi-u.ac.jp/2024/08/05/18970.html
  • 齋藤栄功「第1章 原点は山一証券」『リーマンの牢獄』講談社。最近何かと話題の株式界隈、金融業界における西村賢太的な感じで楽しく読める。山一証券、政治家(とその秘書)、裏金、〈任され口座〉等内部の話が垣間見れて興味深い。今の中国がこの数倍の規模でこんな状態であったとしたら恐ろしい。
  • 昨日は山口大学のオープンキャンパス(吉田キャンパス人文学部)でした。ほぼすべての時間帯で満員御礼状態で、来場者は学生たちとも有意義な交流ができたのではないかと思っております。人文学部は素敵なところなので民俗学・文化人類学研究室だけでなく、いろいろな研究室を是非見てもらいたいです!
  • 齋藤栄功「第2章 大洪水のあと」『リーマンの牢獄』講談社。最近何かと話題の株式界隈、金融業界における西村賢太的な感じで楽しく読める。メリルリンチの社員<顧客というのも確かにこの業界では説得的。社員はいくらでも替えがいるので。当時の外資系の出来高に応じたボーナスも額が額なだけに慄く。
  • カズコ G・ストーン 『はなび ドーン』童心社 (2012) まだ言語を音素ではなく、音声としてとらえている幼児も画と音で楽しめる絵本。ただ個人的には花火があがるときの線は直線的のほうがよいかな、と。あと背景の青みがかった黒も時間の経過とともに、暗くしてもいいのかな、と。子どもの感性は敏感。
  • 齋藤栄功「第3章 カネは蜜の味」『リーマンの牢獄』講談社。最近何かと話題の株式界隈、金融業界における西村賢太的な感じで楽しく読める。「ブティック証券」とかウィタ・セクスアリスとか、なかなか出会わない言葉が新鮮。それにしても個人的な人的交流・相性が重要なのはどの業界も意外と似ている。
  • 齋藤栄功「第4章 「丸紅案件」の魔物」『リーマンの牢獄』講談社。最近何かと話題の株式界隈、金融業界における西村賢太的な感じで楽しく読める。この「丸紅」元課長とやらの山中譲がそもそもの「癌」。やはり人間は肩書に惑わされる。わたし自身も肩書に挨拶したり挨拶されたりしないよう注意せねば。
  • 伊東ひとみ「第3章 無理読みは伝統だった」『キラキラネームの大研究』(2015)以前から「無理読み」はあったとのことだが、問題の所在は名前や読み(パスポートがよい例)を変更することが極めて困難ということ。自分の名前は誰のもの?というのがそもそもの問題。詳しくは『ダメになる人類学』をば。
  • 移動中に河合勇人監督 映画『俺物語!!』(2015)を視聴。見たかった理由は、ただ単純に鈴木亮平が見たかったから。鈴木亮平はprofessionalismの塊。最近、俳優メインで映画が見たくなることが多い。永野芽郁もよかった。主人公の名前が剛田猛男なのは、昭和生まれ人間からするとクスっとしてしまう。
  • 移動中に鈴木雅之監督・映画『湯道』(2023)を視聴。見た理由は、ただ単純にわたし自身が風呂好きだから…。しかしなんというか安っぽいコメディ感があり、日本の(商業)映画のダメなところがいろいろと詰まっている感じがする。ただ役者、特に笹野、吉行、小日向、久保田、ウエンツなどはよかった。
  • 割石敏昭・酒井多加志「登別温泉の形成過程と集落構造」『北海道地理』1994 年 1994 巻 68 号 p. 35-39. よくよく考えたらあの「水」だと農業もできないし、唯一無二の生業が観光業という意味で、近代以降に形作られたのがよくわかる。旧中心がいまだに中心なのも興味深い。閻魔様のルートや定位置も。
  • ウェーバー,マックス (著者), 安藤 英治 (翻訳), 池宮 英才 (翻訳) 1967「音楽社会学 1」『音楽社会学(経済と社会)』創文社。個人的にウェーバーは音楽と社会の人。完全五度を繰り返すと数値的にはズレていくのに、バイオリンは完全五度で調弦するという、この揺らぎの魅力がたまらないのですよ。
  • 『フィンランド かわいいデザインと出会う街歩き (地球の歩き方 GEM STONE 33)』2009。この業界に身を置いてから、いわゆる「旅」というものができなくなった。すべて調査になってしまうため。ただフィンランドだけは旅感を残していていつでも夢想してしまう。サウナとイッタラとマリメッコのおかげ。