先月も、いろいろと慌ただしくしておりました。
5月初旬は毎年、防府市で開催される登り窯を利用したワークショップに参加。
地域の親子で参加するのですが、40人分のカレーの炊き出しを行います。院生や卒業生なども総出で。
授業系では、昨年の民俗調査実習の調査報告書を関係各位に発送いたします。分野総出の作業。
また自治会の一斉清掃をするために、飲み物の買い出しと配付。いずれにせよイベントごとは、当日というよりも準備が一番時間がかかります。
また地域の運動会にも自治会として参加。
…とまぁこんな感じでした。
5月に読んだりしていたのはこんな感じです。
- シンジルト「優しさと美味しさ―オイラト社会における屠 畜の民族誌」『動物殺しの民族誌』昭和堂(2016)とんでもなく面白い。当然、優しさと美味しさをめぐる議論も興味深いのだが、それぞれの事例が最高に輝いている。過度に表象せず「トイエマの肉屋さん」のように日常に戻してくるのも素晴らしい。
- Gerhard Hoffstaedter「Theme Parks, Anthropological Study of」『The International Encyclopedia of Anthropology』(2018) やっぱり近代や近代的な生活との関係・逃避で論じられるテーマパーク。個人的には19世紀後半から存在したスウェーデンのSkansenが気になった。時期や系譜も重要なのだろう。
- 菅豊「自然をめぐる―労働論からの民俗学批評」『国立歴史民俗博物館研究報告』第87集(2001)不勉強なので、柳田がなぜ民俗学における生業研究をあえて「避ける」立場ととってきたのかを学んだ。民俗学の論考を読むと非常に内省的なものも多いが、昭和レトロのようにある種いまは最前線な気もする。
- 岸田真「パフォーマンス研究の地平」『桜美林論考 人文研究』(2010) ジョン・ケージからシェクナーまで20世紀の流れを楽しく学べる。こういうのを見ると、人類学者は作曲家(劇作家)かつ演奏家(俳優)だとつくづく感じる。パガニーニではないが、やっぱり人類学者を含めて成果物な気がしてならない。
- 山口大学人文学部民俗学・文化人類学研究室『福岡県北九州市門司区民俗調査報告書』 (山口地域社会研究シリーズ60、2024) 昨年度は門司を対象とした民俗調査を行いました。刷り上がると嬉しいですね。わたしは「編集後記」を書かせていただいております。昨日は学生と一緒に感謝を込めた発送作業。
- 多々納弘光「1章 工芸の共同体を目指す」『出西窯と民藝の師たち』青幻舎 (2023) 良い。良すぎる。ライフヒストリーも、河井寛次郎との出会いも、河井の言葉もカッコよすぎる。確かに、わたしの身近にも尊敬してやまない干物屋、農家、保育士…が数多いる。仕事も仕事をする人もどちらも静かに美しい。
- 六車由実「終章「驚けない」現実と「驚き続ける」ことの意味」『驚きの介護民俗学』医学書院(2012)個人的に、人類学では「驚けなくなってから」が本当のフィールドの始まりだと思っているのでそこが新鮮。それは介護現場がフィールドでないことを意味しよう。介護民俗学は介護現場の民俗学ではない。
- 加藤康男「第1章 紫禁城の幼帝」『ラストエンペラーの私生活』幻冬舎(2019)清末の激動が描かれているが、なんにせよその中心は西太后でしょう。1908年、溥儀(2歳9か月)が西太后に見えたのが11月13日、光緒帝が亡くなるのが翌14日、さらに西太后が亡くなるのが翌15日である。西太后の執念がすごい。
- 多々納弘光「2章 ただ無名の職人として」『出西窯と民藝の師たち』青幻舎 (2023) 無名の職人…いいなぁ。「やはり酒はつきものでした。後になって笑ったんです。出西窯というのは民藝運動の思想がなければ始まらなかったというけれど、本当は酒がなければもたなかった」という部分、研究室を思い出す。
- 昨日は、現代民俗学会のシンポジウム「民俗学と現象学」をオンラインで聴講。ここで言われている「現象学」がどういう系譜のどういう意味なのかを理解するまでに時間がかかった。個人的には、いずれも「学」とつくのであれば、もう一段メタにしてもよいかな、と、また久々に土居さんが見れてよかった。
- 加藤康男「第2章 宦官と女官」『ラストエンペラーの私生活』幻冬舎(2019)「宦官を肉体的な、科挙を精神的な去勢だとすれば、間違いなく纏足は女性に対する去勢術といえよう」という部分は、バトラーを想起してしまう。カテゴリーに準拠するための、或いはカテゴリーを越境するための身体加工として。
- ジョセフ・ヘンリック「第7章 信じて従う心の起源」『文化がヒトを進化させた』白揚社 (2019) 今更ながら文化進化論めちゃくちゃ面白い。理論や研究史もよいのだが、具体的な事例が響く。トウモロコシと灰、カリブーの狩猟時の占い、ボルネオの鳥占い…累積的文化進化の背景としての因果の偉大さよ。
- 小田亮「[人と学問]村武精一先生の『社会的・象徴的秩序』」『社会人類学年報』43 院生が修論提出直後、廊下で遭遇した指導教員から「それで小田君の指導教官は誰?」と訊かれる当時の都立の雰囲気好き。昨今アカハラ、放置問題等いろいろありますが、研究活動においては指導や授業が全てではない。
- 加藤康男「第3章 憂鬱なる結婚」『ラストエンペラーの私生活』幻冬舎(2019)あらためて言うまでもないが、私的領域なんてあったものじゃない…。いわゆる溥儀自身による伝記本が「周恩来向けの作文」と評されているのは興味深い。何が本当か、と同様に何が本当なものとして採用されるか、もまた重要。
- 加藤康男「第4章 流浪する廃帝と離婚劇」『ラストエンペラーの私生活』幻冬舎(2019)。本章で何度か登場する、婉容と文繡との食卓シーンが冷え切り過ぎていて読んでいて凍える…。特殊なメンタルがないとこの空気では体調を崩しそう。溥儀の笑い方は特殊だったそうだが、生い立ちが生い立ちだけにね。
- 福田アジオ「西の衆・東の番」『番と衆: 日本社会の東と西 』吉川弘文館 (1997) 福田アジオの論考は、なんだか老舗の定番メニューをいただいているようで、本当に落ち着く。滋味深い味噌汁のように「番と衆」も染み渡る。禁欲的で常に適切な射程を維持しており、分かりやすい語り口だが奥行きが深い。
- 大庭美代子 (著), 加藤雅江 (監修)『ヤングケアラーの歩き方 家族グレーゾーンの世界を理解する本』風鳴舎 (2023) 生まれも育ちも東京「下町」だった自分からすると、思い返せば「友達に居た」という感覚。昔はもう少し世間との接点があったが、これは21世紀的な家族中心主義の負の側面かもしれない。
- 図書館さんぽ研究会『図書館さんぽ -本のある空間で世界を広げる』駒草出版 (2018) こんなことを言うと語弊があるかもしれないが、実は昔から読書は退屈で苦手。ただ図書館は好き。『ダメになる人類学』の打ち合わせで使った武蔵野プレイスや実家の最寄りの図書館、赤レンガがとりあげられてて嬉しい。
- 昨日は、防府市指定有形民俗文化財「末田の窯業生産工房及び登窯」の焼物体験教室『みんなで家族で土いじり』に共食担当として、卒業生や院生らと参加。40人分の米をかまどで炊きカレーを提供する。この規模の人数に対し、すぐにあたたかい食事を提供できる研究室は少なかろう。後片付けも見事でした。
- なかやみわ『くれよんたちの きょうはなにをかこうかな?』Gakken(2024)個人的にはどうしても色の並びに目がいってしまう。が、特にメッセージ的なものはまだ見出せていない。1本ずつ表情が違うのと、最後に少し欠けているのがかわいいところ。なんというか絵を単色で描くのはある意味で斬新。
- 上橋菜穂子「第一章 皇子の身体に宿ったもの」『精霊の守り人』偕成社. 某人類学者からいただいた本を3人の子どもに寝る前に読み聞かせる(時が来た)。正直なところ、わたしも初見なので楽しんでいる。個人的に星読み博士がいる「星ノ宮」が砂地で雑音を遠ざけているというのが、考えさせられてよい。
- 横山光輝『三国志』14 潮出版社。曹操軍と呂布軍が対照的に描かれる本作。優秀な部下がいても力を発揮できなければ意味がない。クラスもチームも部局も家族も、最低限の信頼関係がなければ、どんなエースがいても消耗する。本当の力とは「本当の力を発揮できる人間関係、周辺環境を作る力」でもある。
- 高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』晶文社 (2019) 写真手前まで読む。とにかく内容がすごくて一気に引き込まれるし、ゾワゾワが止まらない。現・山口県民として方言が響く。また「自分の倫理観も揺らぎそうなほどの暗闇だ」(p.125)というのは刺さる。「街灯」がない村の人治的不安感。
- 高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』晶文社 (2019) 写真部分から最後まで読む。前半のサスペンス的な展開とは異なり、流れはおだやかに。しかし山間の湧き水が急流へて大河へ至るような充足感がある。個人的には「古老の巻」が響く。そして祭祀に至る流れもよい。民俗的世界もまた現実。
- 上橋菜穂子「第二章 卵を食らう魔物」『精霊の守り人』偕成社. 某人類学者からいただいた本を3人の子どもに寝る前に読み聞かせる(時が来た)。サグとナユグというパラレルワールドは興味深い。ある意味多自然的かもしれない。それぞれの社会集団の神話が政治的であり、それを相対的に語るのもよい。
- “「CTWANT 國際新聞 / 中國女網紅自稱教育專家 逼孩子砸玩具、丟漫畫惹怒眾網」最近、何かと話題になっている中国の「教育専門家」の「指導」動画…。玩具を破壊させ、漫画を廃棄させる…。中国でも賛否両論あり、いろいろと刺激的です。ロシアの有名な教育者って誰だろう…。
- 大塚菜生 (著) イシヤマアズサ (イラスト)『給食室のいちにち』少年写真新聞社 (2022) 内容もイラストも素晴らしい。綿密な取材に裏打ちされている感がある。スタッフも多国籍だったり、背景も丁寧に描かれているのが好印象。校長先生が最初に食べるという基本的なことも知らなかった…民俗誌的仕事。
- 上橋菜穂子「第三章 孵化」『精霊の守り人』偕成社. 某人類学者からいただいた本を3人の子どもに寝る前に読み聞かせる(時が来た)。物語はクライマックスへ。呪術師と星読博士が、同じ宗教的職能者でありながら、徒弟制的/官僚制的、口頭伝承/文字資料、移動/定住と上手に対比されてたのが印象的。
- 上橋菜穂子「第一章 闇の底に眠っていたもの」『闇の守り人』偕成社. 某人類学者からいただいた本を3人の子どもに寝る前に読み聞かせる(時が来た)。職業病で父系リニージの社会集団におけるカグロ、ジグロ、ユグロのグロは漢族の輩行的なものなのか。冗談関係的なユーカ叔母の存在などに意識がいく。